コーヒーブレイク




「お、いい匂い」

高崎が事務室に行くと、ちょうどコーヒーが落ちたタイミングと重なったらしく、部屋中に香ばしい匂いが立ち込めていた。

「お疲れ様です。高崎さんも飲みますか?」

落とした本人らしい職員がポット片手に尋ねてきて、高崎は「じゃあ、もらおうかな」と頷いた。
すぐに使い捨てのカップにコーヒーが注がれ、差し出されたそれを受け取る。

「サンキュ」
「ブラックでよかったんでしたっけ?」
「おう」

まだ淹れたてのコーヒーは白く湯気を立てていて、冷まそうと軽く息を吹き掛けていると、今度は上越がやってきた。

「お疲れー」
「お、お疲れ様です!」

すぐさま二人して敬礼しようとして、けれどなみなみとコーヒーをが注がれたカップ持っていることに気付いて変なふうに直立不動になってしまった。上越が手元を見やり、「コーヒー?」と呟く。

「はい、上官の分もお淹れしましょうか」
「うん」
「確か、甘いものはお好きじゃなかったですよね…はい、どうぞ」

さっきと同じように職員が尋ね、コーヒーを入れたカップが上越に差し出される。その違和感に、高崎はあれ、と思う。職員はコーヒーを注いだだけで、他は一切入れていない。上越はブラックでは飲まないないはずだ。

「じょうか…」

口を挟もうとした高崎を、上越は軽く片手を上げて制してカップを受け取った。
高崎もそれ以上は何も言えず、釈然としないまま自分のコーヒーに口を付ける。職員は上越に渡すと、「それでは、自分はこれで」と言ってそそくさと事務室から出て行ってしまった。
ドアが閉まった途端、上越は高崎の前にカップを差し出した。

「ん」
「はい」

あげる、でも、いらない、でもない。
高崎は上越からカップを受け取り、砂糖とミルクポーションを入れて再度手渡した。
そして、かすかに香りの変わったコーヒーを一口すする。

「甘い」
「そりゃそうです」

文句とも言えない文句は、高崎の耳にも甘かった。




2012.9.1
ツイッターで頂いたリクでした。ありがとうございました!