おひさま




新潟への出張は、そのまま新潟支社での泊まりとなった。
夜半から降り始めた雪は溶け切らない雪の上に更に積もり、日が出る頃には一段と高さを増していた。
相変わらずの豪雪にうんざりする、けれど上越は雪が嫌いにはなれない。どれだけ大変なものなのか、今まで散々苦労させられていたとしても。
新潟の在来線は連日の大雪の影響で遅延や運協が頻発していたが、除雪対策には相当な備えをしている上越は、雪による遅延は滅多なことでは起こさない。その日も始発から通常運行だった。

朝の業務を終わらせ、昼前には東京行きの列車に乗った。
一旦止んだと思った雪は、上越が新潟を発つ頃にはまたはらはらと静かに空を舞っていた。まだ降るのか。吹雪いていないだけ、まだマシだと思わざるを得ない。
今回の出張はずっと曇りか雪で、ついに青空を見ることはできなかった。晴れた日の一面の銀世界は、それはもう眩しいくらいに美しいのだけれど。

峠のトンネルを越えると、そこでは既に雪は望めない。この変わり様を、上越はいつも不思議に思う。ただかだか一時間走っただなのに、こうも景色が違ってくる。
せめて晴れていてくれたら、と思った大宮は生憎の雨模様だった。ちらちらと降る小雨は、傘を差そうか迷うくらいの慎ましさで。

「……つまんない」

この分だと、きっと東京も雨なんだろう。
晴れか、じゃなかったらいっそ雪のほうがよかった。冬の雨なんて、冷たいだけでなんの趣もない。

「上官、お帰りになられてたんですか」

声を掛けられ、振り向くとそこにいたには嬉しそうに顔を輝かせた高崎がいた。
相変わらずわかりやすい奴、と上越も口元をほころばせた。

「ついさっきね。ただいま」
「おかえりなさいませ。新潟はどうでしたか?」
「いつものことだけど、雪だらけだったよ。在来の子達がひーひー言ってた」
「でしょうね……ニュースでも今年は凄いって言ってましたし」

そう言って苦笑する高崎の制服は鮮やかなオレンジ色で、ふと、触れたら暖かいんだろうかと思って吸い寄せられるようにして近付いた。
お日様の、色。
赴くままに抱き付いてみると、高崎は文字通り小さく飛び上がって驚いた。

「ちょっ、上官!?」
「……うーん」

胸元にぐりぐりと顔を押しつけてみる。頭の上で、ひいい、と情けない声がしたが無視しておいた。
別に特別暖かくはなかった。普通の、人肌の体温。
でも、いい匂いがした。

「お日様の匂い」

上越がぽつりと呟くと、高崎が首を傾げるのが動きで伝わって来た。

「……そんな匂いしますか?」
「うん、する」

待ち望む、春の匂い。高崎の暑苦しさは、どちらかというと夏のほうがしっくりするけれど。
まだ寒い今、これに包まれて眠れたらどんなに気持ちいいかと、ぼんやりと思った。




2012.2.28
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