November , 15th




東北を真ん中に、事務所の机を囲んで山形と秋田、長野は一様に東北の手元を凝視していた。
視線の先にあるものは、正方形の白い箱。その中にあるものを、東北はまるで宝石を扱うような丁寧な手付きでそっと取り出した。

「……わぁっ」

東北以外の三人の口から、感嘆の声が上がる。
中から出てきたものは、直径にして二十センチ以上はありそうな大きなホールケーキだった。ショートケーキをベースにした土台の上には色とりどりの果物と細やかな飴細工の飾りが添えられ、一番目立つ真ん中にはチョコレートのプレートに「Happy birthday」の文字が刻まれている。
隣ですごいすごいと連呼する長野に、東北は少し照れくさそうに「そうだろう」と言った。

「奮発したからな。たまにはいいだろう」
「ほんとに奮発したね、すごい美味しそうじゃん! 早く食べたーい!」
「言っておくが、これはお前のじゃないからな、秋田」
「わかってるよ、もうっ」
「だども、確か甘ぇもんは苦手じゃなかったんか?」

山形が、ケーキに向けられていた顔を上げて首を傾げる。甘いものよりは辛いもの、というより酒のつまみに合う少ししょっぱいものが好きな人にホールケーキというのは微妙に合わない。けれど東北は「いいんだ」と首を横に振った。

「プレゼントは自分が貰って嬉しいものをあげるのが一番なんだろう?」
「あー……まぁ、そうだども」
なんて返せというのだろう。というか、それじゃあこれは単に東北が食べたかったからじゃないのか、とはさすがに言えずに、山形は「……いいんじゃねぇが?」と曖昧に返しておいた。

「ところで、いつ戻ってくるんだ」

東北が問うと、長野が「多分もうすぐです」と答える。

「さっき、廊下の自販機の前でお見かけしたのでっ」
「そうか」
「お疲れー」

東北が頷いたのとほぼ同時に、事務所のドアが開いて上越が入ってきた。噂をすればなんとやら、四人の顔が一斉に向けられ、上越は思わずたじろいだ。

「え、何、みんな揃ってどうしたの」
「上越先輩っ」

いち早く長野が声を上げ、上越の腰までしかない小さな身体でぎゅうっと上越に抱きついた。

「お誕生日、おめでとうございます!」
「……え?」

いきなりまとわりついた長野にきょとんとする上越に、山形も秋田も口々に「おめでとう」とにこやかに言った。
 なんのことだかわからずに、説明してよ、と視線だけで東北に訴えると、説明ではなくケーキが出てきた。しかもホールで。やたら甘そうな、古典的で典型的な誕生日ケーキ。

「……誕生日?」
「忘れたのか。今日は11月15日だぞ」

東北が言うと、上越は一瞬考えてから「あー」と呻った。

「今日だっけ! 忘れてた!」
「間抜けだな」
「君には言われたくないよ」

そう言いながらも、上越ははにかんだように微笑んでケーキを受け取った。
ずっしりと重いフルーツケーキ。本当は、甘いものはあまり好きじゃない。けれど、多分これを買う時には自分のことを考えながら選んでくれたわけで、それを考えると、嬉しくてくすぐったい。

「ありがとう」

望まれて生まれて、今でもまだ必要とされている。そのことが何よりも嬉しい。
そんな上越に、東北は言った。

「生まれてきてくれて、ありがとう」

上越の表情が、くしゃくしゃに破顔した。




2010.12.13
擬人化4でのペーパーSSでした。上越ハピバ!